<作中より>
玉砕覚悟。意を決したバーナビーの告白に、そのバーナビーを迷うことなく受け入れた虎徹。
こうして二人は、周囲の目をごまかしながら、想いを寄せ合うようになったのである。
毎日、護衛と称して虎徹の部屋に忍び込み、虎徹の傍にいるバーナビー。
けれど、実際に二人が肌を重ね合わせるのは、付き合い始めてから一年後の話である。
さて話しは戻るが、いつか二人が街の様子を見回っているときのこと。
もちろんお堅い老中や、ある意味虎徹の教育係りでもある参謀長のロイズには、虎徹が城下町に降りることに目くじらを立てられ、反対されまくっているが、虎徹にとってはどこ行く風である。
その度に、
『ヘマをやらかさないように、あなたがしっかり見張っていてくださいね!』
ときつく言われてしまうのが、バーナビーのワケだが……。
とは言っても、職務とはまた違う虎徹の骨休めでもある街の巡回は、バーナビーにとっても人の目はばからず堂々とデートを楽しんでいるようなものなので、ロイズにどんなにキツく言われても、気にしてはいない。
その【デート感覚】を、バーナビーは無意識の内に表面に出してしまうのが、下世話な噂に拍車をかけてしまう原因の一つだ。
店の商品を興味深く眺めている虎徹の腰に、さり気なく腕を回してみたり、足元が悪かったりすると手を差し伸べてみたり(さすがの虎徹も、これは『必要ねェっ』と突っぱねるが)。
ようするに、噂の出所をバーナビー自ら作り上げていると言っても可笑しくはない、というワケである。
つい最近も、虎徹が瞬きするくらいのマッハぶりで、バーナビーが突然ツッコんできてお姫様抱っこをするものだから、周囲がドッとざわめきだつ。
若い女性からは黄色い悲鳴が。
「何だよ、突然っ。ビビんだろっ!」
ホントに、突然何事かと思えば、
「いえ……鳥のフンが降ってきたので……」
「……は?」
バーナビーが視線を向ける、先ほどまで虎徹が立っていた場所には、びちゃりと白い液体が。
たしかに鳥のフンである。
だがしかし、
「おめェ、そんなことで人のこと抱え上げてんじゃねェよ!」
ムキーッとでも言い出しそうな勢いでお怒りモードの虎徹に、少しだけ眉間にシワを寄せたバーナビーが、
「そんなこととは、ヒドいですね。あなたを鳥のフン攻撃から助けてあげたのに……」
しれっと答える。
そのしれっが更に腹立たしくて、
「鳥がそんな攻撃するワケねェだろっ」
腹立たしげな口振りで上を見上げれば、
「…………」
キューッと二人の真上で旋回を続けているトンビが一羽……。
本当に今から攻撃を仕掛けてきそうなくらいの勢いに、虎徹は返す言葉がなくなってしまった。
……と、コントのようなやりとりをしていた二人のお姫様抱っこ姿を、ヒソヒソと声をそばだてながら魅入っている女子連中。
いい加減恥ずかしくなって、
「早く降ろせよ。いつまで何やってんだ、おめェっ」
と促せば、バーナビーは何故だか至極詰まらなそうな表情を浮かべ、ようやく虎徹を開放する。
「おまえさ……なに不機嫌な顔してくれちゃってるワケ? 人の目っつーのを少しは気にしろよ……」
「……別に、不機嫌なワケじゃありません」
「おいおいバニーちゃん……それ、俺の方が悪いように聞こえんだけど……」
「……別に、そんなこと言ってるワケじゃありませんが……」
と……完全なオフモードで、これが本当に国王なのか? という感じのライトな虎徹と、これが本当に国王の側近なのか? という態度のバーナビーに、この日もまたワンランクアップした噂が新たに発信されたワケである。
常に共に行動し、コンビでもある二人の仲の良さは、こうして少々色目を向けられ脚色されているのだが、まさか二人が本当に身近な人間達にさえ隠れて想い合っているなどと、誰が思いつくだろうか……。
強いていえば、いつも二人が【休憩】と称して立ち寄る王家御用達の高級宿、そこのチーフの【斉藤】だけは、唯一二人の関係を知り、二人をこっそりと部屋に案内している。
虎徹が王位を継ぐ以前からの付き合いであり、虎徹が信頼を寄せている一人である。
バーナビーのこともすぐに紹介したし、付き合うことになったときも斉藤にだけは隠さずにすぐ伝えた。
斉藤はさすがに複雑そうな表情を浮かべてみせたけれど、それでも、
『それが二人の選んだ道なら、私はいつだって応援するし、協力するよ。助けが欲しいときは、いつでもココにくると良い』
と言ってくれ、こうしたお忍びも見て見ぬふりをしてくれているわけである。
お姫様抱っこで市民を騒がせた二人は、この日も斎藤が営む宿に立ち寄った。
いつものように斉藤に促され、秘密のルートで王族専用の部屋にたどり着く。
部屋の扉を閉めた瞬間に、バーナビーに背後から抱き竦められ、虎徹は『まだまだ若いよな〜』と情熱的なバーナビーに苦笑いを浮かべた。
「ちょっと、我慢利かなすぎじゃねェか?」
嬉しいんだけど、あんまり強く抱き締めてくるから苦しくなってきて、遠回しに力を緩めてくれ、と訴える。
がしかし、
「これでも懸命に我慢していたんですっ。あなたを抱きかかえたら、無性に接吻けたくなって、自分を押さえるのに懸命だったんですから……どうにか理性を総動員させました」
「な……っ」
バーナビーの口から飛び出した有り得ない発言に、虎徹はギョッとした。
あんな大衆のど真ん中でキスなんてされていたら、とんでもない騒ぎになってただ事じゃなくなっていただろう。
下手をしたら、バーナビーが何かしらの処罰を受けることになり兼ねない。
バーナビーの理性がブッツリと途切れてしまわなくて、本当に良かったと心の底から思う。
にしても、まさか……。
「あのときおまえが欲情していたなんて、夢にも思わなかったぞ……あんな風にしれっと受け答えしていたはずなのに……若者って、怖い……」
虎徹とコントのようなやりとりをしていたバーナビーが、実は興奮していただなんて信じられなくて、少し振り返って疑わしい目を向けた瞬間、虎徹の視界が遮られる。
ほんの一瞬何が起きたのかわからなくなったが、すぐに押し当てられた唇に呼吸を奪われてしまった。
「んっ、ふっ……!」
ここまでどれだけ我慢してきたのかを記すかのような激しい接吻けに、虎徹のカラダはゾクゾクと震え上がる。
すぐに絡んでくる濡れた舌先と、間近で耳を犯すバーナビーのくぐもった吐息。
自分の嬌声すら耳に響き、いたたまれない。
そしてわざと押し当てられる、既に咆哮しているバーナビーのソレに堪らなく興奮し、虎徹は自分の足で立っているのもままならない状態だった。
バーナビーの力強い腕が、虎徹を支えているのだ。
ヒドく硬く、とてつもない存在感で虎徹を欲情させる、バーナビーの熱いソレ。
意図を持って虎徹の股間にソレを擦り立てられ、それだけで気持ち良くて堪らなくなる。
「んっ、ぅんっ、」
ヒクン、ヒクン、と性的に跳ね上がってしまう自分のカラダが、恥ずかしくて……。
自分よりも十以上も年下のバーナビーに、キスと関節的な愛撫だけでその気にさせられてしまうだなんて、悔しくて仕方がない。
それでも、これだけでこんなにも感じてしまうのは、それだけバーナビーのことを―――
不意にバーナビーの唇が離れ、名残惜しく虎徹の舌先が空をさ迷う。
そして、耳元に唇を寄せたバーナビーに甘く耳語され、ついに耐えきれなくなった虎徹は、ズルズルと床にへたり込んでしまった。
「すっごくいやらしい顔で、僕のことを煽らないでください、虎徹さん……」
「っ!!」
二人きりのときに限り、バーナビーだけに呼ばれる自分の名前。
熱を孕んだ声でそんな風に囁かれてしまっては、虎徹にとって一溜まりもない。
自分が呼ばせた名前。
二人きりのときだけは、国王ではなく、誰にも呼ばれなくなってしまった名前を呼んで欲しいと……。
普段は国王と呼び、時折余所余所しさすら感じられるバーナビーに名を呼ばれることが、こんなにも苦しみを伴うなど、想像もし得なかった。
自分の心臓の喧しさに、名前なんて呼ばせなければ良かったと、八つ当たり気味に思ってしまうことがあるくらいだ。
虎徹は毛足の長い上等な絨毯の上にぺたりと尻を付き、欲情で水の膜を張った瞳でバーナビーを見上げる。
ドキドキとうるさい心臓と、ドクドク強く疼いて仕方がないあの部分。
男のカラダの顕著さを、虎徹は時折恨めしく思えてしまうことがある。バーナビーに煽られて、虎徹の股間はボトムの中で痛いくらいに張りつめていた。
自分の顔を見る事が出来ない自分でも、今どれだけ誘うようなはしたない表情をしているのかがわかる。
だって、目の前には大きく山を作り虎徹に強く存在を示す、バーナビーの股間があるのだから……。
*続きは本誌にて・・・*
※
pixivに、違う部分を上げています。
スポンサーサイト