スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【兎×虎、空×虎】エアドール 1

連載スタートです。
「空/気人/形」のパロディになります!!
でも、設定だけ拝借して、ほとんどオリジナルの展開です。
虎徹→人形
キース→虎徹の持ち主
バーナビー→(オリジナルは本屋の)店員
になります。
ナチュラルに虎徹がメイド服を着ていたりします。
いろいろ苦手な方はご注意ください。

今回はR15くらいの感じです。
3回くらいで終わると思います!
(今は既に後半部分を書いてます)

【追記】
pixiv用に箸子さんが表紙イラストを描いてくださいました!
ありがとうございますーーーっ><
可愛いので、サムネイルにしません!(笑)

airdoll01.jpg


【兎×虎、空×虎】 エアドール 1



「虎徹、ただいま! そしてただいま! 独りで淋しかっただろ? 毎日独りぼっちにしてしまって、本当にすまない。すぐに、ご飯にするよ!」
 青年が仕事から帰ってきて家に着く早々、誰かに語りかけるように言葉を発するが、その声に返事は一切返ってこない。
 それでも青年は構わず声を掛け、毎日の日課のようにいの一に風呂の自動湯張りのボタンを押し、続けてリビングのテーブルに、帰り際弁当屋で買ってきた二人分の夕食を並べ、カップにペットボトルの茶を注いでいる。
「今日はね、ビルで起きた火災で取り残された子供を助けたんだ! お母さんにとても喜んでもらえてね。本当に無事で良かったよ!」
 ひとしきりの準備を終え、青年はベッドに近づく。
 誰も返事が返ってこない、誰もいないハズの部屋に存在する、一つの人影。
 それは、メイド服に身を包んだ男性の姿だった。
「さぁ虎徹、夕食を食べてしまおう」
 青年は、虎徹と呼ぶ男性のカラダを軽々と抱え上げ、リビングに連れて行く。
 そう。
 それは男性を精密に模した、エアドールだ。
 人形なのだから、当然返事が返ってくるワケがない。
 それでも構わず青年は、エアドールに当たり前のように話しかけ続ける。
【虎徹】をテーブルの椅子に座らせ、青年も目の前に腰を下ろし、手の平を重ね合わせる。
「いただきます、虎徹」
 もちろん、返事はない。
 彼は、心を持たない人形だから。
 それでも青年は、まるでそこに本物の人間がいるように、話しかける。
 エアドールに、強く愛情を注ぐように。
 時に楽しそうに、時に悔しそうに、時に悲しそうに……消防士である青年の一日の出来事を、ジッと一点を見つめ瞬きもしない人形に、絶えず話しかけるのだ。
「すまない、虎徹。明日は朝早いから、一緒にお風呂に入って今日は早く眠ろう」
 自分が食べ終わった弁当くずを片付け、エアドールの前に置いた種類の違う弁当は明日の朝食べるために冷蔵庫に閉まって。
 青年は着替えの準備をすると人形を抱えて、バスルームへと向かった。
 23時を回った遅い夕飯を食べている間に、加減良く張られた湯船にエアドールを沈め、自分は早速髪の毛と体を洗う。
 続けてエアドールの髪の毛を洗い、体もしっかりと泡立てたクリーム状の泡で優しく洗っていく。
「毎日、一緒の匂いだよ、虎徹」
 とても、愛しそうな声。
 再び湯船に浸かるエアドールを背後から腰を抱きしめ、エアドールの肩に顎を乗せる青年。
「空気が乾燥してきている所為か、今日は火事が何件もあったんだ……さすがに疲れてしまったよ、お風呂が気持ち良くて、眠ってしまいそうだ、虎徹……」
 本当に今にも眠ってしまいそうなとろんとした口調で、エアドールに抱き付き自重を支えている感じ。

『キースは真面目で働き者で、文句一つ言わない。いつも嫌みの全くない笑顔だし、本当に勤め人の鏡だよな。上司は絶対に部下にしたいだろう』

 同僚に、いつもそんな風に言われている青年。
 いつも笑顔でいるのは、笑顔は相手に幸せを与えることができるから。
 人を救助したとき、その人に、その人の家族に『ありがとうございます!』と感謝され、そして笑顔で対面しあう。
 その笑顔を見るのが青年は大好きで。
 人の笑顔を見るとこんなに幸せな気持ちになれるのなら、自分が笑顔でいると相手にも幸せを与えられるのではないだろうかと……青年は思うのだ。
 でも……いつも穏やかな青年にだって、つまらないことや気に入らないこと、腹立たしいことはもちろんある。
 けれどそれを愚痴のように他人に話しをすることも、青年はあまり好きではないから……そんな本心を、青年はこのエアドールにだけは話すことができる。
 人形は、青年にとっての心の拠り所でもあるのだ。
「虎徹……いつも私の話を聞いてくれて、ありがとう。そして、すまない……君は、満足なのだろうか……」
 青年は呟き、人形の体をギュッと抱き締める。
「虎徹……君の声が聞けたなら、どんなに幸せだろう……」
 叶うはずもない願いを口にし、現実を知らしめられ、うなだれる。
 青年はやりきれない思いを抱きながら湯船から上がり、虎徹の髪の毛を乾かして、互いに裸のまま狭いベッドの中へ潜り込んだ。
 180センチで長身の人形と並ぶには、少し狭いセミダブルのベッド。
 それでも密着できるから、青年は構わないと思っている。
 温もりが得られないのは少しだけ残念だけど、その分ひんやりとした肌は心地よくも感じる。
「もう、一週間えっちをしていないけど、明後日は休みだから明日セックスをしよう、虎徹。おやすみ。そして、おやすみ」
 人形の体を少しベッドヘッドに寄りかからせるように寝かせ、軽く唇に接吻けた青年は、電気スタンドを消して眠りにつくのだった。
 刹那、シンと静まり返る部屋。
 しばらくして、青年の寝息が静かに暗闇の中奏でられ……こうして一日が終わり、数時間後朝を迎え、いつものように一日が始まる。
「それじゃあ虎徹、行ってきます。留守番、よろしく頼むよ!」
 青年はエアドールに音を立てて接吻け、笑顔で手を振りながら仕事に出掛けて行った。
 遮光カーテンを開けた、朝の日差しが差し込む静かな部屋。

「…………」

 そのとき、エアドールの黒目が確認するように少しだけ斜め下に向けられると、恐る恐るゆっくりと顔が動き、青年が出て行った玄関先を見つけた。
(……いって、らっしゃい、ご主人様……)
 ゆっくりと、一音一音をたしかめるように紡がれる、心の声。
 一度も聞いたことがない、青年の名前。
 エアドールは彼のことを、心の中で『ご主人様』と呼んでいる。
 これは自分が【作られる】とき、『ご主人様にしっかりと可愛がってもらえるエアドールになれよ』という言葉を何度も聞いたことがあったので、今隣りで眠る青年のことを指しているのだと思い、『ご主人様』と呼んでいるのだ。
 青年は、自分のことを『虎徹』と呼ぶ。
 何故そう呼ばれるのかはわからないけれど。
 けれど、青年はとても自分のことを大切にしてくれていることが、すごく伝わってくる。
 所詮、エアドールは性欲処理の道具でしかない。
 自分もしかり。
 当然そのつもりで箱の中に梱包され、ここまで来た。
 けれど、青年の自分に対する接し方は、性欲処理以外の違うモノを感じるのだ。
 もちろん、セックスはする。
 感情をぶつけるように、激しく抱かれることも……。
 それでも、エアドールも青年のことは好きだった。
 好きだからこそ、青年のようにセックスで感じることができない自分が、エアドールは歯がゆくて仕方がなかった。

『いつも、自分ばかり話してしまってすまない』

 毎日毎日話しかけてくれる青年に、一言の言葉も返してあげることが出来ない自分が赦せなかった。
 エアドールはゆっくりとベッドから降りると、レースのカーテンをあけ、窓の外を見つめる。
 眩しい日差しに向かって、手を伸ばす。
 裸の体が、うっすらと透けて見え、少しだけ綺麗かもしれないて思ってしまった。
 けれど、人間とは違うカラダ。
 自分のカラダを眺めてみる。
 平らな胸に飾られた薄桃色の小さな突起。
 青年はもっと濃い色をしているから、自分のこれはなんとなく恥ずかしい。
 腕の脇と足の後ろには、【皮膚】を繋ぎ合わせた線。
 ヘコんでいるはずの臍には、エアドールの命とも呼べる空気を送り込むための突起が。
 そして、そのすぐ下に存在する、上を向いた性器……。
 空気を送り込むと同時に、勃ち上がるのだ。
 性欲処理のエアドールなのだから、萎えた性器など問題外。
 青年は、時折これを丁寧に舐めてくれることがある。
 そのときは、なんだか嬉しいと思う。
 そしてその更に奥にある、尻に装着されたアナルホール……。
 ココに性器を埋め込まれ、腰を激しく振られ、そして青年はイキ果てる。
 とても悩ましい表情で射精するその瞬間の気持ちを、エアドールはわかることが出来ないのが、悲しい。
 一緒に同じ気持ちになれたなら、どれだけ喜ばしいことなのだろうと……。
 青年は、今日セックスをすると言っていた。
 セックスは、嫌いじゃない。
 自分は、そのために作られた人形。
 セックスが嫌だと感じたら、自分は存在理由をなくしてしまう。

 ただ、一緒に感じたい。
 ご主人様と、一緒に。
 でも、エアドールにはそれが出来ない。



 俺は、エアドール。
 決して持ってはいけない心を持ってしまった、哀れなエアドール―――





   *





 今まで、青年の部屋の中から見た景色しかしらない虎徹は、目に映し出されるすべての景色が至極新鮮で、ワクワクドキドキと胸を躍らせながら街を歩いていた。
 虎徹は色んなことが知りたくて、青年が仕事に向かってひとりになったとき、遂に家を飛び出してしまったのだ。
 虎徹にとって、まさに冒険だ。
 青年は大体外が暗くなってから帰ってくるので、暗くなる前に帰らなければいけないが、記憶力には自信がある虎徹である。
 部屋を出て、青年の名前がキースだと言うことを初めて知った。
 それでも、自分の中でキースは変わらずのご主人様なので、心の中でご主人様と呼んでいる。
 周囲を見渡すすべてのものが、虎徹にとって初めて見るもの。
 今虎徹が着ている細身のスラックスとベスト、緑のシャツに黒のネクタイも、キースが『きっと虎徹に似合うよ!』といって買ってきてくれたもので一度だけ着たことがあったけど、それ以来身に付けなくなってしまった一式だ。
 普段はもっぱら裸かメイド服。
 メイド服も嫌いではないし、色んな服を着せ替えのように着させてもらったけれど、この服が虎徹は一番気に入っていて、もっと着てみたかったので、引っ張り出したのだ。
 普段はカチューシャが飾られた頭部に被せられた白と黒のハンチング帽も、格好良くて大好きだ。
 この格好で街を歩けるのが、虎徹は嬉しくて仕方がなかった。
 時間を忘れてゆっくりと歩道を歩き続けていると、とある建物から音楽が漏れてきて、賑やかな雰囲気が気になり虎徹は足を止めた。
 いつも帰りが遅いし、音楽を聞くこともあまりしないキースなので、虎徹はいつもひとりで外から聞こえてくる音だけを聞いてきた。
 正直、物寂しい思いをしていたことは否めないので、この賑やかな店にはすごく興味が沸き起こったのだ。
 その時ちょうど、若い男女の集団4〜5人が、ケラケラと豪快に笑いながら出て来たので、虎徹はびくりとカラダを跳ね上げてしまった。
 彼らは、そこに虎徹がいたことも気付かない感じに虎徹の脇を通り過ぎていき、そのままいなくなってしまった。
 しかし、道中でも思ったのだか、この自動で開く扉にはさっきから驚かされてしまう。
 前を歩くと勝手に扉が開いて、そのたびにビクッと驚いている虎徹である。
 店頭入り口に大きく掲げられた文字を、見上げる。
 不思議と、文字を理解することが出来る虎徹の目に映し出された店の名前の脇に、【カラオケ】と記してあって。
(カ…ラ…オ…ケ……?)
 それがなんなのか、非常に気になる。
 先ほどの若者達をみる限り、楽しいところで間違いはないはずだ。
(……ヨシッ)
 虎徹は意を決し恐る恐る扉の前のマットに足をかけると、扉が再び自動的に開き、また閉じてしまう前に中に入った。
 挙動不審のようにキョロキョロと視線をさまよわせていると、
「いらっしゃいませ」
「!!」
 突然声を掛けられ、虎徹はビクンとカラダを跳ね上げ、声の矛先に視線を向けた。
 カウンターの中でこちらを見ている眼鏡を掛けた長身の青年を、思わず虎徹も見返してしまった。
 考えてみるとキース以外に初めて話し掛けられ、妙に意識してしまい、虎徹はドキドキと心臓を弾ませながら、青年に近付いた。
「お一人様ですか?」
 にこりと笑みを浮かべ話しかけてくる青年に、虎徹はあることに気付き固まってしまった。
 虎徹は今まで心の中で独りで話しをしていただけで、いまだかつて【声】を発声したことがないのだ。
 言葉の意味は理解していても、【会話】というものをしたことがない虎徹は、自分が上手く発声できるかどうか、心配になってきたのだ。
(えっと……)
「……あ……の……」
 口を開き、ゆっくりと声を出してみる。
 虎徹自身初めて聞く自分の声が、なんだかもの凄く不思議な感じがして、虎徹はフワフワとむず痒いような、照れくささが込み上げてきて、へらりと笑みを浮かべた。
「お客様?」
 もちろん、青年には不審者でも見るような疑わしい目を向けられてしまい、虎徹はこれではいけないとビッと姿勢を正し、表情を引き締める。
「あの……お一人…様って?」
「は?」
 虎徹にとっては、何が一人なのかまったくをもって意味がわからないので訪ねてみたのだが、もちろん青年にとっては虎徹の事情など知る由もないので、【?】である。
 思いきり『何を言っているんだ、この人は……』と言う目で見られてしまったけれど、虎徹は気にせず首を傾げてみせる。
「お客様……カラオケに来たのではないのですか?」
「カラオケ……って何? すごく、楽しそうだったから……入ってみた……」
 ゆっくりな口調で声を発する。
 徐々に、徐々に慣れていく感じ。
 青年は訝しそうに眉間にシワを寄せると、少し考え込んで、説明をしてくれた。
「平たく言えば、歌を歌うところです。カラオケに来たことないんですか?」
「今日、初めて家を出たんだ。歌……何だか、楽しそうだなっ」
 想像をする。
 キースも歌を歌っている時は、とても楽しそうな表情を浮かべているし、テレビに映し出される歌番組もとても楽しそうだ。
 それが出来るところなのだと思うと、心の中がワクワクとしてきて、虎徹は青年に向かって満面の笑みを浮かべて見せた。
「…………」
 青年が、とても意外そうにこちらをマジマジと見つめる。
 顎に指を当てて、虎徹をしばし見つめたまま考え込む青年。
 その間に、虎徹はバーナビーの胸に飾られた名札に目を留める。
 BARNABY BROOKS Jr.
「バー…ナビー……ブルックス……ブルックス……ジェイ、アール?」
「は?」
 名札をマジマジ見つめながら何を言い出すのかと思えば、突然最後にオチを付けてきた虎徹に、青年は一旦頓狂な声を漏らすと、次の瞬間プッと吹き出してしまった。
「何ですか、それ。ウケを狙ってるとしても、そんな言い方する人既に化石ですよ」
 もちろん虎徹はウケを狙ったワケでもオチを付けたワケでもってないので、何を笑われているのか全然理解が出来なくて。
 眼鏡の奥の瞳に、涙さえ浮かべている青年に首を傾げながら、
「何が、そんなにおかしいんだ?」
 と、クエスチョンマークを表情に浮かべてみせる。
 本当に何笑われているのかわかっていない物腰の虎徹に、バーナビーは人差し指で涙を拭いながら、今度は興味深そうに虎徹の表情を見つめた。
「まるで……赤ん坊のようですね」
「あ?」
 突拍子もなく『赤ん坊』呼ばわりされ、虎徹は自分のどこが赤ん坊に見えるんだろうと疑問に思い、腕を上げて脇から背後を覗いてみたりと、自分のカラダをあちこち確認する。
 したら、更に笑われてしまった。
「見るものすべてが初めてのような感じですし、先ほどご自身で『初めて家を出た』とおっしゃってましたから……とても珍しいなって思って……ご病気でもされていたんですか?」
「えっと……そんな、もんだ……」
 青年の質問に動揺し、自分がエアドールだということは言ってはダメだということはわかっていたので、虎徹は曖昧に言葉を濁した。
 虎徹の知識では、上手い言い訳なんてまだまだ考えられない。
 それでも青年は別段気にすることもなく、
「ちょっと、そこで待っていてくださいね」
 とだけ言って、裏の方にいなくなってしまった。
「…………おーい」
 初めての場所で一人取り残されてしまい、虎徹はどうしたものかと声を掛けてみたのだが、反応はない。
 ちょっと待ってと言われたので、帰ってはいけないのだろう。
 キョロキョロと当たりを見渡し、陳列棚を覗き込む。
 スナック菓子と、ちょっとした雑貨がたくさん並んでいる。
 キースは、スナック菓子を食べないから、こういう物も虎徹にとっては新鮮だ。
 ロビーの大きいテレビ画面には、風景や人物の下の方に次々に切り替わっていく文字が表示されていて。
 さすがに虎徹には早すぎて着いていけないと目で一生懸命追っていると、ようやく青年が戻ってきた。
「おかえり」
 なんとなく、キースが家に帰ってきた時に心の中でいつも呟いている言葉を口にすると、一瞬驚いたような表情を浮かべた青年は、次には笑顔を浮かべて見せて。
「今は昼間ですので、忙しくはないですし……というよりも暇なので、特別に許可をもらってきました」
「え……?」
「行きますよっ……えっと……名前、聞いてなかったですね」
「あ……虎徹……」
「虎徹さんですね。じゃあ、行きますよ、虎徹さん」
「あ……ちょ……っ」
 この青年といると、突然のことがいっぱいだ。
 いきなり腕を引っ張られ、なすがままの虎徹である。
 青年は適当な部屋に入ると、虎徹をソファーに座らせ、そして自分もソファーに座った。
「ここで、カラオケをするんです。歌いたい歌を選曲して、曲が流れたら歌う。それだけのことです」
「……ヘェ……」
 マイクやリモコン、選曲の本をそれぞれ手にしながら説明してくれる青年に、虎徹はなるほどと頷きながら話に聞き入る。
 今はちょっとしたことでも知識が身に付くことが嬉しい虎徹である。
「なんで、歌うんだ?」
 素朴な疑問に、青年はどこか楽しそうな表情を浮かべながら答えてくれる。
「基本的に歌が嫌いな人ってそんなにいないですし、人は歌うと嫌なこととか忘れちゃいますから……ストレス解消にもなるんでしょうね」
「ふーん……バー、ナビーも、歌うのか」
「僕は、あまり……ここにいると、お腹いっぱいになってしまうので」
「お腹いっぱい?」
「……ホントにお腹いっぱいになるワケじゃないですよ? どう説明すれば良いんですかね……間接的に物事に携わると、そのことをしているワケではない自分までしている気分になるというか……難しいですかね?」
「……おォ。よくわかんねェけど、なんとなくわかった」
 丁寧に説明してくれるけど、わかるようなわからないような感じなので、そのまま答えたら、プッと吹き出されてしまった。
「……あなたといると、なんだかとても面白いです。自分まで、新鮮な気持ちになってしまいます。実はココ、バイトを募集しているんですが……ここで働いてみる気はありませんか? 僕が店長に押してみるので……」
「え……?」
 何も知らない虎徹に対して、まさかの勧誘。
 働くこと自体何のことだかよくわからないけれど、虎徹もこの青年といると楽しかったので、【働く】ことに興味が湧いてきた。
 キースといることが楽しくないワケじゃない。
 むしろ、キースの話を聞いているのは楽しいし、一瞬にいるのも好きだ。
 でも、キースにとっての自分は所詮エアドールであって、会話をする事は決して赦されることではないし、動くことなど言語道断である。
 反面、この青年にとっての虎徹は【人間】だから……。
 虎徹は、二つ返事で頷いていた。
 キースにバレないようにしなければならないので、とても危険な選択ではあったけれど……それよりも、興味の方が勝ってしまったのだ。
 虎徹の決断は早かった。
 このあと店長に紹介してもらうと、どうやら店長も虎徹のことが気に入ってくれたようで。
 虎徹は翌日から、このカラオケ屋で働くことになった。
 キースが休みじゃないときは、毎日のように店に通った。
 この店舗で、アルバイトではなく唯一の社員だという青年も、ほぼ毎日のように仕事に来るから毎日のように合うことが出来る。
 虎徹は、楽しかった。
 実際虎徹は、水を吸い込むスポンジのごとく、物凄いスピードで色んなことを覚えていくから、教える方も楽しいのだ。



 俺は、エアドール。
 決して持ってはいけない心を持ってしまった、哀れなエアドール。
 でも俺は……【何】に心を持ってしまったのだろう……。






スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント :

プロフィール

眼鏡帽子屋*くー

Author:眼鏡帽子屋*くー
こちらはT&B 兎虎、右虎徹小説メイン、同人情報サイトです。腐向けですので、苦手な方男性の方18歳未満の方はご退出くださいませ。なお、関係者とは一切関係ありません。

カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
最新記事
カテゴリ
最新コメント
月別アーカイブ
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

検索フォーム
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。