【君が欲しい】※過去編作中より
その日の空は、今にも降り出しそうなどんよりとした空で、キースは『降らなければいいな』とグレーの空を見つめながら会社に出勤した。
この日はヒーローTVから特別要請が掛からず、ジャスティスタワーにトレーニングでも行こうかと外に出ると、キースの願いは叶わず土砂降りの雨が降り注いでいて。
ハァと深いため息を漏らしながら、駐車場に向かおうとしたそのときだった。
「っ―――っ!!?」
自分でも、良く見つけたと思う。
タクシーの後部座席にのる虎徹の姿を、キースは見つけたのだ。
「ワイルド君……っ」
虎徹の隣りには、キースの知らない中年の男が乗っていた。
ただならぬ予感に、キースは気付けばタクシーを拾い、虎徹が乗ったタクシーを追いかけていて。
虎徹と中年男性がタクシーを降り入っていった場所は、自分では泊まることなど一生なさそうな高級ホテル。
そこに、虎徹はまるでエスコートでもされるように中年男性に腰をさりげなく抱かれ、ホテルの中にへと入っていった。
それが一体、何を意味するのか……キースだって知らないワケじゃない。
噂には聞いたことがある。
スポンサーに対する、個人的な接待。
その中でも、ヒーローは取り分け高い値がつくと……。
そんなのは、冗談だと思っていた。
市民を守るべきハズの存在であるヒーローが、そんな【裏】を持っているだなんて……。
けれど、今目の前で起きている現実は、見紛おうなく、それで……。
何故、虎徹がこんなことをしているのか。
虎徹に見つからないようにロビーに入れば、ちょうど二人がエレベーターに乗り込むところで。
どのフロアで止まるのか、やきもきしながらエレベーターを見つめ、落ち着かない体を右へ左へと辿らせる。
最上階の24階で止まったエレベーター。
「ワイルド君……どうして……」
一体目の前で何が起きているのか、キースは理解することが出来ずにいた。
出来るワケがなかった。
虎徹が、【カラダの接待】だなんて……。
今すぐにでも部屋に乗り込んで、止めさせたかった。
こんな、間違っていることなど……。
けれど、もし虎徹がこの事実を所属会社に強要されていたならば……止めさせたことで虎徹の人生を狂わせ兼ねない可能性がある。
キースから言わせれば、そんな会社辞めてしまえば良いと思うが、そんな簡単にキースが虎徹の人生を変えてしまうことはできない。
今まで虎徹の様子が可笑しかったのは、おそらくコレが原因だったのだろう。
もしも、虎徹が誰かの助けを求めていたのなら、助けてあげたいのに……そう考えても答えなんて見つかるワケもなく、キースは混乱する頭が爆発してしまいそうだった。
(ワイルド君……君は一体、独りで何を抱え込んでいるというんだ……)
(どうして、助けを求めてくれない……)
(私では、そんなに頼りないだろうか……)
気付けばキースは、エレベーターに乗り込み、虎徹が今【接待】をしているのだろうフロアで降りていた。
少しずつ、少しずつキースの中で目覚める、黒い感情。
こんな感情を抱えることは初めてで、今の虎徹を壊してしまいたい衝動が、強く膨れ上がっていた。
虎徹の人生を、壊したいワケじゃない。
虎徹の存在そのものを、ぶち壊してしまいたくて……。
キースは、フロアが見渡せる場所で身を潜め、二人が出てくるのを待った。
二時間ほどして扉が開く音が耳に届き、キースは注意を払って視線を注ぐ。
出て来たのは中年男性だけで、虎徹の姿は見当たらない。
好都合だと思った。
男がどの部屋から出て来たのか忘れないように何度も部屋数を確認し、男が完全に見えなくなったことを確認すると、キースは部屋の前に立った。
既にキースの中で、躊躇いは存在しない。
キースは迷うことなくベルを鳴らす。
虎徹としては、男が何か忘れ物でもして戻ってきたとしか、思わなかっただろう。
ゆっくりと足音が耳に届き、少しの間を要して、扉が勢いよく開け放たれる。
「な、んで……キースが、ここに……」
「ワイルド君……」
いるべきハズのない男が目の前に立っている事実に、虎徹はまさに顔面蒼白の状態でキースの顔を見つめる。
キースは虎徹の姿を頭から爪先まで、視線を辿らせた。
バスローブ姿の虎徹。
「っ……」
慌てて隠した手首に、擦り傷があるのをキースは見逃さなかった。
虎徹が、あの中年男性にどんなことをされたのか……予想が付いてしまう光景。
もしも会社の為だったとしても、何故虎徹がここまでしなければならないのか……何故ここまで自分を犠牲にしなければならないのか……煮えくり返る憤りが沸々とこみ上げてくる。
それは、虎徹にこんなことをさせている、トップマグに対する憤りなのか、それともこんなことを許している、虎徹に対する憤りなのか……。
どちらでもあるような気がして、カラダの脇で握った拳は、その怒りを象徴するかのように震えてしまう。
キースは、心の片隅でほんの僅かな望みに賭けていたのだ。
たとえ個人的な接待だったとしても、そういうことはしていないと……。
現実はどこまでも無情なのだと、思い知らされる。
「ワイルド君……」
「っ……!」
名を呼ぶと、ビクリと怯えるように目の前のカラダが跳ね上がり、虎徹の腕が咄嗟に扉を閉めようとしたので、キースは慌てて中に入り、自ら扉を閉めて施錠を施した。
虎徹が、逃げられないように。
「キース……なんで、おまえがここにいんだよ……ありえねェだろ……」
言い訳なんて、できようもない状況。後ろめたさに目も合わせられない虎徹は、うつむきながら唇を噛み締めている。
何故ここまで後ろめたく思うようなことを、しなければならないのだ……。
「私は……最近の君の様子がおかしかったから、君のことが心配で仕方がなかった。そして、心配だったんだ……君に聞いても、正直に話してくれそうになかったから、バイソン君に相談してみたら、身内に不幸があったと聞いて……それならば時間が傷を癒やしてくれるだろうと、始めは思っていた」
「…………」
「けれど君の様子は、どんどんヒドくなっていく一方だったから……私は、どうしても傷心が理由なだけではないと思ったんだ。だってワイルド君……君、日に日に窶れていってるではないか……」
「っ……それは……」
「……今日君を見かけたのは、たまたまだった。後をつけてしまい、すまなかったと思っている。本当にすまない。けれど、これでどうして君の様子が可笑しかったのか、わかったよ……こんなことが、原因だったなんて……」
「っ……」
キースに、悪気はなかった。
けれど、『こんなこと』に嫌悪感が滲み出ていたのだろう。
虎徹にはきっと、キースの言葉が蔑んでいるように聞こえたに違いない。
「どうせ、不潔だって思ってんだろ? 軽蔑してんだろ? だったら俺に構わず、放っておけよっ。こんなところにまで押し掛けんなよっ!」
「っ!! 違うんだっ。すまない、軽蔑だとかそんなつもりはないっ。私はただ、ワイルド君がワザと自分を追い詰めているように見えてしまったから……もっと、自分を大切にして欲しいってことを伝えたかっただけなんだっ!」
ひどい言葉で虎徹を傷付けてしまったことに気付き、キースは慌てて弁解する。
更に虎徹を追い詰めてどうすると……自分に心底嫌気がさしてくる。
けれど、虎徹にキースの気持ちは伝わらない。
「おまえに、俺の何がわかるって言うんだっ……俺のことなんて、何も知らねェだろうが!」
「っ―――!??」
堪らなくショックだった。
虎徹のことなんて、何も知らない。
たしかにそうかもしれない。
虎徹にとって、キースはまだ出会って間もない、新人のような存在だ。
虎徹のことを知らなくて、当然だ。
けれど、その言葉は自分が虎徹の中で『仲間』として認められていないような気がして……。
独り孤独を感じていたキースに、初めて声を掛けてくれたのが虎徹だったから……それは、大きな思い上がりだったというのだろうか……。
「…………」
そう思ったとき、キースの中で沸々と憤りのようなものがこみ上げていた。
それが何に対する憤りなのか、キース自身にもよくわからなかったけれど……。
そして虎徹の次の言葉が、キースを完全に見失わせたのだった。
「俺は……野郎とセックスするのが好きで、自ら社長に頼んでこうしてんだ……」
「っ!! う……嘘だっ」
動揺するキースに、虎徹は口元に笑みを浮かべながら、有り得ない言葉を続ける。
「嘘なんかじゃねェよ。俺は、ケツに突っ込まれて、掘られて悦ぶような変態野郎なんだよ」
「うるさい!!」
「口に咥えて、『コレでケツの穴を犯して下さい』って懇願して、自分から股開くような、淫乱なんだよっ」
「嘘だっ! うるさい! 黙れ……っ!!」
「嘘じゃねェって言ってんだろっ!!」
「じゃあ……じゃあなんで、君は泣いているんだっ!」
「っ……!!」
めずらしく感情を露わにするキースに、虎徹は慌てて自分の頬に触れた。
「泣いてなんて……いねェじゃねぇか……」
そう、実際に泣いているワケではないけれど、虎徹の心が泣いていると……キースは思ったのだ。
それが、今にも泣き出しそうな表情に繋がっているのだと。
はっきりいって、嘘だってバレバレだ。
虎徹自身、心の中に迷いがあるからこそ、『泣いている』と指摘され、焦ったのに違いない。
「泣いているよ……誰かに助けて欲しいと……君は必死に訴えかけている」
「う……嘘だっ!」
今度は、虎徹がキースに喰ってかかる。
嘘なんかではない。
虎徹の言葉はすべて嘘だけれど、その表情は嘘を吐かないから……。
「私は、本当に君を助けたいだけなんだっ。今だってそうだ。君の苦しんでいる姿は、見たくないんだよっ」
「なんで……なんで俺に……おまえがこんなことしなきゃならねんだよっ。放っておいてくれれば良いのに……っ!」
「そんなの……そんなの、君のことが好きだからに決まってるじゃないか!!」
【貴方が欲しい】※未来編冒頭より
「ぅっ……ふっ……ば、に……」
「ほんと良い眺めですよ、虎徹さん……ちょっとした僕の実験だったんですが、そんなに我慢できなかったですか? そういうの、【アナニー】と言うんですよね?」
「ハァ、ハァっ、ばにぃ……たり、ないっ」
とあるホテルの一室。
チェックインをした部屋にあるものを並べ、バーナビーは虎徹に電話を入れた。
「虎徹さん。一度チェックインしたんですが、忘れ物をしてしまったみたいで、ちょっと出てきますね。先に部屋で待っててもらえますか?」
『……わかった』
虎徹は短く返事をし、携帯を切る。
相変わらず、少し不満そうな声。
けれど、これはキースが提案したことで、虎徹はキースの言ったことを断ることは出来ない。
初めて虎徹とキースの関係を目撃してしまい、冷静さを失ってしまったバーナビーが、その中に加わって二人で虎徹を責め立てたあの日以来。三人は奇妙な関係で繋がり、こうして月に一度、ホテルなどに集合して三人でセックスを楽しんでいる。
逆に言えばバーナビーはキースに、月に一度だけ虎徹を抱くことを許されたのだ。
もちろん、キースも交えた状態で。
『虎徹はバーナビー君ともセックスをするようになって、益々綺麗に、色っぽくなったと思わないかい? バーナビー君に責め立てられている虎徹を見ると、堪らなく興奮してくるよ!』
と、変なところでキースの天然が炸裂したわけである。
キースの中ではただ純粋に、綺麗になっていく虎徹の姿を見るのが嬉しいのだろうが、虎徹にとっては一溜まりもない話だろう。
一度に二人を相手にしなければならない虎徹は、事後いつも立ち上がれなくなるくらいにグッタリと弛緩してしまう。その精液塗れの虎徹の姿が堪らなく色っぽく、バーナビーとキースはいたく気に入っている。
最近は、3Pを赦すキースの気持ちが、何故かわかるようになってきてしまった。
本当に綺麗なのだ。
キースに抱かれているときの、虎徹の姿は……。
快感の箍が外れると、虎徹はひどく淫らになり、壮絶なエロスを醸し出す。
それは、上下の口を同時に責め立て犯されるときに、見ることが出来るのだ。
キースと虎徹には、五年という長い長い繋がりがある。
初めは虎徹のことを、絶対にキースから奪ってやろうという気持ちが強かったが、今はひとまずこの関係を続けていくのも悪くないと思っている。
もちろん、最終的には掻っ攫うつもりでいるけれど……まだまだ、虎徹の中でキースが一番だと言うことは、悔しいけれど伝わってくるから……。
今は、月に一度だけ赦されたこの日を、無駄にすることなく存分に楽しもうと、バーナビーは思うようになったのだ。
それが、今日で……。
実は、一ヶ月……正確には一か月半近く、虎徹と性的な接触ができなかったが、タイガー&バーナビーが日に日に多忙になっていったため、キースともすれ違いばかりだったようで、どうやら二人もご無沙汰のようなのだ。
時々、無意識に『キース……』と呟く虎徹の物寂しそうな姿を見ては、つまらない思いをしてきたバーナビーである。
ある意味セックス依存症のカラダになってしまった虎徹が、一ヶ月半もご無沙汰だなんて耐えられないだろう。
以前キースが言っていたが、虎徹はキースが赦したとき以外での自慰行為を、赦されていないらしい。
欲求不満のカラダになった虎徹を抱くのは、また格別だからということらしいが……。
実はバーナビーが先回りして、部屋にこっそりと準備したものは、いわゆる【大人の玩具】というヤツである。
一ヶ月半もセックスを、自慰すらしていない虎徹が、ようやくセックスが出来るという昂揚した状態でソレを目にしたら、一体どんな反応を示すのか……バーナビーは見てみたくなったのだ。
『ちょっと出掛ける』なんていうのは嘘。
ちゃっかりバルコニーに身を潜めているバーナビーである。
電話して15分後、虎徹は部屋に現れた。
キースはいない。
実は、こんなことをしてみたいとキースに話したら、喜んでOKを出してしまったのだから、本当に不思議な人である。
虎徹が来る前に一度従業員を呼び『サプライズで連れを喜ばせたいから』とルームキーを返したので、虎徹は疑うことなくこの部屋に来ただろう。
キョロキョロと辺りを見渡しながら、ハンチング帽を鏡の前に置く虎徹のカラダが、ピクリと動きを止める。
ツインベッドに挟まれたサイドテーブルに置かれていたモノを目に留めて。
ソコに置かれていたものは、バーナビーと引けを取らないくらい長大な、電動式ディルドだ。
虎徹は、バーナビーが本当にいないかを確認するように辺りを何度も何度も見渡し、そして躊躇いながらソレを手に取る。
『…………』
しかし、一度ソレをサイドテーブルに戻す。
明らかにバーナビーの仕業だとわかる代物に、躊躇っているのだろう。
けれど、視線をそこから離すことが出来ない。
次第に肩を上下に揺らし始めた虎徹は、
『キース……』
と呟くと、ネクタイを緩め外してしまい、ベストとシャツのボタンを外して、焦ったようにスラックスと下着をいっしょくたに脱いでしまった。
「……っ」
虎徹のペニスは既に勃起していて、それを見ただけでバーナビーの背筋がゾクゾクと興奮に震え上がる。
ディルドを見て興奮したのか、もしくはここに来る期待だけで、部屋に入る前から勃起していた可能性もある。
本当に、はしたなくも愛しい人だ。
ソレを再び手に取りベッドに上がった虎徹は、発情期の雌犬のように四つん這いの体勢で尻を突き出すと、躊躇いなくソレに口淫を始めて……。
『ンッ、ンッ……はふっ、おっきい……っ』
よほど欲求が溜まっていたらしい。
ピチャピチャと音を立てながら、ディルドにしゃぶり付く虎徹は、一体どっちを思い浮かべているのか……。
*続きは本誌にて*
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