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【もしにょたシリーズ1】キース×虎徹♀*エレベーターガール編*その2(完)


もしにょたパラレル キース×虎徹♀*エレベーターガール編*完結ですwww







もしにょたパラレル シリーズ1 【キース×虎徹♀*エレベーターガール編*】その2





「行って……しまった……」
 キースは、しばらく彼女が見えなくなったエレベーターの扉を、ジッと見つめていた。
 そのくらい、目を奪われていた。
 とても、とても綺麗な人だった。
 周りの話からすると、歳はキースのいくつか上になるけれど、見た目は全然そんな風に見えなくて、見えないけれど至極大人の女性の雰囲気も纏っていて……。
 脚が、ともかくハンパなく長かった。
 ヒールを履いている分、身長は同じくらいになるだろうが、腰の位置は断然彼女の方が高いだろう。
 何より、漆黒の髪の毛がとても似合う女性だった。
 それはとても艶やかな色香を纏っていて……。
「綺麗な、人だ……そして、美しい……」
 キースの口からは、彼女に対する感嘆の言葉しか出てこない。
 トクトクトクトクトクトクトクトク。
 気付けば早鐘を打ち鳴らしている、胸の鼓動。
 この気持ちはなんだろうかと、胸の辺りを押さえてみた。
「なんだ、これは……」
 こんな風になるのは初めてのような気がして……まさか、これが人を【好き】になるという感情なのだろうかと、初めて気付かされる。
 二度ほど女性とお付き合いしたことはあるけれど、それは共に女性から告白され、でも結局女性から離れて行ってしまったから。
「こんな、気持ちは……初めてだ……」
 意識し出すと、それは急速に膨れ上がっていく。
 息苦しいほどの想いに、キースは気持ちを落ち着かせようと何度も深呼吸をする。
 その時、どのくらいその場に立ち尽くしていたのか、エレベーターの到着を知らせるチャイムが鳴り響き、キースは驚いて隠れるようにその場を離れてしまった。
 衣装棚の影に隠れて様子を伺ってみたが、開いたのは別の扉のエレベーターで。
 ホッと安堵のため息を漏らすと共に、一体自分は何をやっているんだと、途端に冷静になってしまった。
 これでは、明らかに不審者だ。
 これからどうしようかと、頭をフル稼働させる。
 けれど、結局エレベーターに乗ろうと思っては、今更感にタイミングを逃すこと数回。
 ひとまず違うエレベーターに乗って上階に上がり、買い物をした雰囲気で乗れば良いと思いあたって一番上のフロアに向かえば、レストランフロアに到着。
 ちょうど昼時でお腹も空いてきたので、腹が減っては戦は出来ぬと腹ごしらえにランチを始めれば、いつの間にかこのデパートに入店して二時間強が経過しているではないか。
 一体ここまで何しに来たんだっ、と、自分を叱責。
 こんなに優柔不断なヤツではなかっただろう、私は! と心の中で鼓舞し、今度こそ、
 彼女がいるエレベーターに乗り込むぞ! まずはそこからじゃなければ何も始まらない!!
 と開き直り立ち上がろうとした。
 そのとき、目の前に影ができてキースは何事かと咄嗟に上を見上げた。
「っ!! き……君は……!??」
 キースは、心臓が一瞬止まってしまったと感じられたくらい、ビックリしてしまった。
「あんた……まだいたんだな」
 テーブルに右手を付き左手は腰へ、キースをのぞき込むような態勢で興味深そうな表情を浮かべているのは、言わずもがなあの彼女で……。
 こんなところで彼女と遭遇するとは思いもよらず、キースの中で時が止まってしまった。
 彼女の出現に、周囲も何人か噂をするようにこちらに視線を送っている。
「お昼休憩なんだけど、下に社食ってヤツ? が一応あるんだけど、ずっと同じだと飽きるでしょ? だから週に一回、自分にご褒美でこうして上に来て、お昼食べてんだ」
 なんでこんなところにいるんだろう、という疑問が、顔に表れてしまっていたのだろう。
 別に聞いたワケではなかったのに、彼女はキースの疑問に答え、ニコリと笑顔を浮かべてみせて。
「ほぉ……」
 開いた口が塞がらないとは正にこのこと。
 キースはポカンと口を開けながら、彼女の言葉に頷いたような、感嘆のため息を漏らしたような、自分でもよくわからない声を漏らしてしまう。
 しかも、続けて彼女が発した言葉に、キースは更に固まってしまったのだ。
「なァ、ここ空いてる?」
「え……?」
「せっかくだから、私の話し相手になってくんないかな?」
「!!」
 そう言って、返事も待たずに席に座ってしまった彼女に、キースはカチンコチンに固まってしまった。
 オーダーを取りにきたウエイトレスに、「今日も、オススメで」と笑顔で答え、続けて頬杖をつきながら、キースの反応を楽しむようにジッと見つめてくる彼女に、こんな状況に慣れていないキースは、あからさまにしどろもどろになってしまう。
 すると、突然彼女がプッと噴き出してしまい、キースは目を丸くしながら彼女を見つめた。
「そんなに緊張することないって。あんたが、ネイサンが言っていた【キース】だろ?」
「え?」
 突然名前を呼ばれて、ビックリしてしまった。
「見て、一発でわかったよ。『挙動不審のブロンド爽やか好青年が来るから』って。ネイサン、『もしかしたら、エレベーターに入らない可能性があるわね、あのコ』とか言うから、言葉のまんまで私あの後笑い堪えるの、精一杯だったんだぞ?」
「……ネイサンが、そんなこと……」
 ネイサンの声真似をしながら、クスクスと笑っている彼女。
 既に根回しをしていただなんて思いもよらず、呆気に取られてしまう。
 つくづく侮れない人物だと再確認である。
 けれど、
「私、鏑木虎徹って言うんだ。男みたいな名前だけどさ……ヨロシクな」
 そう言って、笑顔でウインクをしてみせる虎徹に、キースの今まで張り詰めまくっていた緊張は、ようやく解くことが出来たのだった。
「虎徹って、素晴らしい名前じゃないか! そして、とても素晴らしい! 虎徹君って呼んでも構わないかい?」
「虎徹君か。なんか私に合ってるかも知れないな。どうも、女らしくするのが苦手でさ……」
 照れくさそうにポリポリと頬の辺りを掻く仕草をして、肩を竦めてしまう虎徹に、キースはブンブンと大きく首を横に振ってそれを否定した。
「そんなことははないさ! さっき君が仕事をこなしていた姿はとても美しく、女性らしく艶やかで、みんなを魅了していた。君の笑顔が、あの場にいるみんなを幸せな気持ちにさせていた。君は、とても素晴らしい女性だよ!」
 とても真剣に、真顔で力説したものだから、驚いたような表情を浮かべた虎徹は、続けて照れくさそうに笑みを浮かべた。
「それは言い過ぎな気もするけど……でも、ありがとな。お世辞でも嬉しいよ」
 お世辞ではないのだが……それでも、柔らかな笑みを浮かべる虎徹に、やはりキースは見惚れていた。
「なァ。あんた美容師なんだろ? 結構有名なんだってな。今度、私の髪の毛も切ってくれないかな? もっと、おしゃれにしてよ」
「もちろん! 君なら大歓迎だよ!!」
 自分の黒髪に指先を絡めながらお願いしてくる虎徹に、キースは思わず身を乗り出しながら強く頷いてしまった。
 虎徹はクスクス笑いながら、ヨロシクな、と口にして。
 そうこうする内に虎徹のランチが届き、キースもコーヒーを追加して、二人の会話は大いに弾んだのだった。
 不思議な気持ちだった。
 今までは女性が本当に苦手で、プライベートでこんな風に楽しく話をしたことは、記憶を遡る限り一度もなかったから……。
 それは明らかに、虎徹がそうさせていることで、この人こそが自分の理想の女性なんじゃないだろうかと……キースは虎徹を見つめながら強く思っていた。
『あんた、意外とハマっちゃうような気がするのよね』
 ネイサンの人を見る目は本当に凄いと思う。
 出逢って数時間、見事にハマってしまった。
 もっともっと一緒に話をしたいと思ったのに、楽しい時間はあっという間で、虎徹の休憩時間の終わりが近付いてしまった。
「じゃあ、楽しかったよ。話し相手になってくれて、ありがとな」
「あ……私の方こそ、ありがとう、そして、ありがとう! とても、楽しかったよ。あの……」
「ん?」
「その……また、ここに来て構わないだろうか?」
 この一言をいうことだけでも、キースにとってはとても勇気のいることだ。
 一瞬、キョトンと目を丸くした虎徹は、ニッと笑顔を浮かべると、
「ここは私んチじゃないんだから、いつでも自由に来て構わないんじゃないか? ぜひ、売上に貢献してくれよ」
 そう言ってウインクをして、虎徹は会計を済ませていなくなってしまった。
「……とても……楽しかった……」
 虎徹が見えなくなった入り口をいつまでも眺めながら、キースはぽつりと呟いた。
 自分の家に帰ってきても、考えることは彼女のことばかり……。
 既に、虎徹に逢いたいと強く思い、これは仕事に身が入らないかもしれないと、自分でも心配になったのだが、ふと虎徹の言葉を思い出す。

『週に一回、自分にご褒美でこうして上に来て、お昼食べてんだ』

 そうだ。
 一週間を精一杯頑張った自分へのご褒美に、虎徹に逢いに行けると考えたら……。
 きっと一週間を乗り切ることができるだろうと、キースは思った。
「待ち遠しい……実に、待ち遠しい……」
 虎徹が子供に向けた笑顔を思い浮かべながら、自分にもあんな笑顔を浮かべて欲しいと強く願ってやまない。



 この日から、店の定休日である毎週火曜日。
 ヘリオスビルにキースが表れるようになり、二ヶ月後にはすっかり名物になっていたのだった。










「あなた、すっかり立ち直ったみたいね。売り上げも、またトップに戻ったみたいじゃない」
「これも、君のおかげさ。君が虎徹君を紹介してくれたから、私は彼女に逢えることを自分へのご褒美にしているんだ」
「ご褒美?」
 店の様子を伺いに来たネイサンと、チーフであるキースは客足が落ち着いたころ、少し店を出て隣接の喫茶店でコーヒーを啜りながら、そんな話をしていた。
「彼女がね、『週に一度、自分へのご褒美をあげている』って話しをしていて、実に素晴らしいと思って、私も自分へのご褒美に彼女に逢いに行ってるんだ」
 とても爽やかな笑みを浮かべるキースが本当に楽しそうで、二ヶ月前とは大違いだとネイサンは内心苦笑いを浮かべる。
 伊達にキースと付き合いが短くはない。
 キースのことだから、虎徹にハマるだろうとは思っていたが、まさかここまで効果絶大だとは思いもよらなかった。
 あの日以来、キースと逢うのは初めてだが、虎徹からはちょくちょくと電話が掛かってくるし、一度店にも飲みに来た。
 虎徹もキースと逢えることを楽しんでいるようだが、虎徹の方は面白い遊びを見つけた的感覚が強いかもしれない。
 いかんせん、彼女は周囲にモテモテのクセに、その意識が全くなく、自分に向けられる好意に点で気付かない、鈍感娘である。
 こっちは、あからさまな感情を見せているというのに……。
「で……虎徹のことが、好きになったんでしょ?」
「え?」
 突然ドストレートに突っ込んできたネイサンに、キースは顔を真っ赤に染めてしまった。
「あの……好き……なのだろうか?」
 思わず問うてしまったキースに、ネイサンはドッと呆れたため息を漏らす。
 アッチもアッチだければ、コッチもコッチだ。
「あんた、週に一度あんな所まで逢いに行って、好きの何物でもないでしょ、そんなの」
「……そう、だよね……」
「……この際、告っちゃいなさいよ」
「え?!! そ……それはっ」
 突然のネイサンの言葉に、あからさまにしどろもどろになっているキースに、ネイサンがまた悪そうな笑みを浮かべてキースを誘惑する。
「だって彼女、嫌な素振りを見せたことがないんでしょ?」
「まァ……いつも楽しそうに笑ってくれているが……」
「脈ありじゃない? あーいうタイプは、押しに弱いものなのよ? 花束なんか持って行ったら、喜ぶんじゃない?」
「……そうだろうか? 僕は、女性に何をしてあげればいいのか、全然わからないから……」
「当たって砕けろよ! 彼女人気者なんだから、ぼーっとしていたら、誰かに取られちゃうわよ!」
「そうだよな……ありがとう、そしてありがとな!」
「笑顔も忘れないでね!」
 ネイサンのけしかけに、スッカリその気になってしまったキースは、次の休みに告白してしまおうと、強く心に決めたのだった。



 次の定休日。



 キースは、真っ白な百合の花束を抱え、ヘリオスビルの前に立っていた。
 見るからに好青年が花束を抱えているのだから、目立ちまくりも良いところだ。
 キースがこんな大きな花束を抱えても、気障にも嫌味にも見えないのだから、不思議だ。
 通りすがりの人々は、こんなところで花束を持って何をするのか興味津々に見ているし、キースがお馴染みだと知っている従業員や常連客は、『ついに……!』と色めき立っている。
 それだけ、キースが虎徹に惚れ込んでいることは周囲にバレバレなのに、肝心の当人達は周囲が騒いでいることも、虎徹に至ってはキースの気持ちすら気付いていないのだから、お互い鈍感にもほどがある。
 そんな二人にして、ついに動き出したキースに、周りもどんな展開が待ち構えているのか、気になって仕方のない様子だ。
 キースは一度抱え込んだ花束を見つめる。
 百合……というよりも真っ白な花に鮮やかな緑の葉や茎、そのコントラストがとても虎徹に似合うと思ったのだ。
 ただ今絶賛注目の的になっていることに、キースは全くなく気にしてはいない。
 気にしていないというよりも、そこまで意識が回っていないと言うべきか。
 今、キースの目に見えるものは、このビルの中で虎徹が今仕事をこなしている、エレベーターのみ……。
「……ヨシッ」
 キースは一つ大きく頷くと、意を決め、闊歩にビルの中へと入っていった。
 ものの数十秒でたどり着いたエレベーターの前。
 どれだけグッドタイミングなのか、そのエレベーターはちょうど上から下って到着した模様で、虎徹が会釈をしながらお客に挨拶をしているところだった。
「あれ、キース」
「っ!!」
 心の準備なんてあったもんじゃない状況で虎徹と目が合ってしまい、キースは固まってしまう。
「そっか、今日火曜日……」
 少し上目遣いに思い浮かべ、そして続けていつもと様子が違うキースのそれに目を向ける。
 肩に抱えるくらいの、百合の花束に……。
「どうしたんですか? その、花束……」
 一応勤務時間ということを思い直し、敬語で問いかけてくる虎徹に、キースは一度その花束に視線を移す。
 その時、
「頑張れっ」
 横からそんな言葉が、小さな声で聞こえてきた。
 見てみれば、何度か顔を合わせたことがある常連客で。
 しかも周りがみんな密かにキースへの応援モードで、エレベーターに乗ろうという人が一人も現れない。
「えっと……これは、どういうこと?」
 誰もエレベーターに乗らない上に人だかりが出来てしまい、【開】を効かせたままで困った表情を浮かべている虎徹。
「みんな……ありがとう、そして、頑張るよ」
 周りに小さくお礼を言って一つ小さく頷くと、キースは意を決して虎徹の目の前まで足を運び、そしてしっかりと両手で花束を持ち、虎徹に差し出した。
「え……?」
「君に、とても似合うと思ったんだ。ぜひ、君にと思って……」
「え……今、私に? えっと……仕事中だよ? 私……」
「……すまない。でも、どうしても待ち切れなくて……」
 勤務時間中にこんなものすごい花束を差し出されて、虎徹に困り果てた顔をされてしまう。
 当然と言えば当然だろう。
 けれど、キースにとっては一世一代の大告白。
 決心を鈍らせないためにも、どうしてもこのタイミングではいけなかった。
 だから、キースは紡いだのだ。
 みんなの前でも、迷うことなく。
「私は、君が好きだ。そして、大好きだっ。僕の気持ちを、受け取ってもらえないだろうか……?」
「っ……」
 この状況でも自分が告白されるとは思っていなかったらしい、超鈍感な虎徹が、目を大きく見開いてキースを見つめている。
 見つめてる、というよりも、固まってしまったというべきか。
 キースの男らしい告白に、周囲はどよめきと歓声が沸き起こり、通りがかった人たちも何事かと足を止めるものだから、軽くごった返し状態だ。
「何? ドラマの撮影か何か?」
 と話し合っている者も……。
 キースに意識はなくても、虎徹にとってはかなりの恥辱プレイだ。
 虎徹は急激に恥ずかしくなってきて、顔を真っ赤に染め上げてしまった。
「虎徹君……? 受け取って……」
 反応してくれない虎徹に、キースは『フラれてしまうのか……?』と心配になって、顔をのぞき込むように問おうとした瞬間、
「キース、ちょっと来いっ!」
 突然虎徹が花束を抱えた腕を掴み、プライベート仕様のちょっぴりワルイ言葉遣いでキースの名を呼んだかと思えば、思い切りエレベーター内へと引き寄せられ、エレベーターの中に二人きりで閉じ込められてしまった。
 おぉぉぉ!! という大歓声を背中に受けながら。
「虎徹君? どうしたんだろうか?」
「どうしたじゃないよ! あんた、何考えてんだっ。あんなとこで、こんな……大切なことを、見せ物みたいにやって……私、ここで働いてんだぞ? 思い切り変な噂がたってしまうじゃないかっ」
 緊急連絡用のコールに「ちょっとごめんなさいっ」と手短に告げた虎徹が、今度はキッとキースを睨み付け、声を荒げて問い詰めてくる。
「変な噂? すまない……私は、君にとても迷惑を掛けてしまったんだね」
 思い切り怒られてしまい、キースはシュンと項垂れた。
 告白のことばかりを考えて、虎徹の迷惑なんて一切考えていなかったキースである。
 ネイサンも『花束を贈ってみればいい』と言っていたので、スッカリ喜んでもらえると思っていた。
「本当に、すまない……君を、怒らせてしまって……私を、嫌いになってしまっただろうか……」
 先ほどの男らしい姿はどこにいってしまったのか、スッカリ元気をなくし弱気になってしまったキースに、虎徹は数秒の間を要してハァと一つため息を漏らすと、ぴちんとキースの両頬を軽く挟むように叩いた。
「っ! 虎徹君……?」
「そうだな……すごく怒ってるよ。言っただろ? こんなこと、こんな場所で言うもんじゃないって……もっと、場所を選べってこと……」
 どこか悔しそうに顔を歪めながら、一度言葉を切った虎徹は、キースの右手に握られた百合の花束を両手に握りしめ受け取る。
「……虎徹君?」
「こんなにカッコイイことは、もっとロマンチックなとこでやらなきゃ、女の子はときめかないだろ……?」
「あの……」
「って、私は【女の子】ってよりも、【おばさん】だけどな」
 そう言って苦笑いを浮かべる虎徹に、キースは首を大きく横に振って虎徹の言葉を否定する。
 以前も、まったく同じようなことがあったな、なんて思う余裕もないほどに。
「そんなことはない! 君は私が知るどんな女性よりも美しく、素晴らしい女性だっ!」
「だぁーかぁーらぁー。そう言う恥ずかしい言葉を、恥ずかしげもなく平然と言い退けるなって。もう……無駄にドキドキしちゃうだろ?」
 顔を真っ赤に染め上げて、琥珀の瞳に涙まで滲ませる虎徹の姿が、随分と幼くも見え、至極可愛くて……。
 堪らない愛しさが込み上げて強く抱き締めたい衝動に駆られたけれど、また虎徹に怒られてしまいそうだったので、我慢をした。
 その代わり、キースは虎徹に近付き花束から百合を一本引き抜くと、茎をほどよい長さに折り曲げて、そっと虎徹の耳の辺りに差し込み髪飾りにして……。
「やっぱり……とても白い花が似合っている。そして、綺麗だ……」
「っ……!!」
 大きな花びらを付けた百合の花で飾られて虎徹が本当に綺麗で……キースは自画自賛すると共に、うっとりとした溜め息を一つ零す。
「虎徹君……?」
 黙り込んでしまった虎徹に、キースは首を傾げて虎徹の顔を覗き込む。
 紅潮した頬と、こちらも赤く染まり涙を滲ませた瞳。
 その瞳が、ジッと百合を見つめていて……。
 しばらくして、虎徹は意を決したような表情で顔をあげると、ようやく答えを口にするのだった。
「ちょっと……てゆか、かなりビックリしたけど……こんな風に花束なんてプレゼントされたの初めてだから、本当に嬉しいよ。ありがとう、キース」
「じゃあっ!!」
 虎徹の反応に、キース表情が期待にパッと輝く。
 けれど、意外にも虎徹は曖昧な苦笑いを浮かべて……。
「正直に話すと……まさかキースが私のことをそんな風に思っていただなんて思いもよらなかったから、今はまだ、キースのことをそんな風に想うことに、イメージが湧かないんだ」
「え……」
 一変、虎徹の口から紡がれた【拒否】の言葉に、明るく輝いていたキースの表情が一瞬で曇り、悲しそうに眉尻を下げてしまう。
 けれど、虎徹の【告白】はそれだけでは終わらなかった。
「良く聞け、キース。私は『今はまだ』って言ったよな……」
「え……?」
「キースと一緒にいるのは、すごく楽しい。私にとっては、いつまでも話しをしていたいなって思える人で、今も……正直ドキドキしてる。だから……すぐには無理だけど、私も前向きに考えようかなって思うよ」
「えっと……それは……」
 つまり……。
「あんたのこれからの【頑張り】次第で、私を落とせるかもしれないってことだよ。頑張れよ、好青年っ」
 そう言って、不意に虎徹の顔が近付き、ドキリと鼓動が跳ね上がった時には、虎徹の柔らかい唇がキースの頬に触れていて……。
「これ、ありがとな! ちゃんと、部屋に飾るよ」
「……虎徹君……」
 これでもかってくらいの屈託のない綺麗な綺麗な笑顔を浮かべる虎徹に、キースは見惚れた。
 虎徹がキスしてくれた頬にそっと触れる。
 そこだけが、熱を持ったように……熱い。
「私はまだ望みがあるってことだね! 嬉しいよ、そして、嬉しい。今、より一層キミのことが好きになったよ!」
「……ったく……平気でそういうことを言うんだから……それは卑怯だろ?」
「卑怯……なのかい?」
「……ゴメン。卑怯じゃ、ないよ。あんたは、どこまでもまっすぐだから……私には、もったいないくらいだ……」
「何を言っているんだ! もったいないだとかなんて、人を好きになることに、そんなことはまったく関係ないじゃないか!!」
 ふと笑みを浮かべた表情が、あまりにも儚くて……自分を過小評価するような発言をする虎徹に悔しくなって、キースは思わず声を荒げてしまった。
 ビックリした表情を浮かべている虎徹に、どうすれば自分の気持ちが伝わってくれるのかわからない。
 気持ちを、言葉に乗せることしか、キースには思い浮かばない。
「君が……本当に、好きだ」
「っ……」
 まるで、泣き出しそうな表情を見せる虎徹。
 どうすれば、先ほどのような笑顔になってくれる―――
 困り果て、内心おろおろとしていると、ふと発した虎徹の言葉に、キースは目を丸くして虎徹を見つめた。
「キース……名前、呼んでよ……」
「え……? 虎徹君?」
「違う……『虎徹』って……」
「…………」
 その言葉に、ようやく意味を理解する。
 何か違うのだろうか? と思いつつ、キースは虎徹の望むように彼女の名を呼んだ。
 ありったけの感情を込めて、
「……虎徹……好きだ……」
 と……。
「っ……」
 虎徹はただでさえ泣き出しそうだった表情をさらにくしゃくしゃにすると、そっとキースの肩に額を乗せて、呟いたのだった。
「すっげェ、ドキッとした……ヤバいな……時間の問題じゃん……」
「え……? 何がだい?」
 小さな声で紡がれたその声が良く聞き取れず、キースは聞き返したのだが、突然『ヨシッ』と呟いて離れていった虎徹に、見事にはぐらかされてしまった。
「私、仕事中だってこと忘れてしまいそうだったじゃん。花、本当にありがとな。でも、まず今日は帰れ」
「えっ?! 虎徹君?!」
「緊急停止なんて使っちゃって、私クビにならないかな……知ってる? エレベーターに防犯カメラが設置されてんの。なにも言ってこないのは管理のご厚意だよ。みんな筒抜けだよ、まったく……」
「え? え??」
 突然饒舌にしゃべりだす虎徹に、キースの頭の中はクエスチョンマークだらけだ。
 そうこういう内にエレベーターの扉が開き、キースは容赦なく追い出されてしまった。
「虎徹君っ!??」
 エレベーターが開いた瞬間に沸き起こる歓声。 改めて人だかりの多さに驚いてしまう。
 その中でさえ、虎徹は容赦なく
「また、出直してきな」
 と言ってきて。
「皆様、お待たせしてしまい、大変申し訳ございませんでした」
 続けて、何事もなかったかのようにお客に向かって頭を下げる虎徹に、キースは目が点状態だ。
「え……ぇえ??」
「なァ、なァ、どうだったんだよ?」
 ぞろぞろとエレベーターの中に入っていく客に紛れ、中の様子が気になって仕方がないのか何人かに声を掛けられたのだが、
「え……よく、わからないよ……」
 としか答えることしかできなくて。
 本当に容赦なく扉がしまってしまい、キースは呆然とエレベーターの扉を見つめたまま、しばらく動くことができなかった。
 どれだけうごけなかったのかと言えば、各階に止まりながら上がり、下ってくる虎徹が乗ったエレベーターが、再び戻ってきたくらいだ。
 扉が開くと、百合の花束を抱え、一輪を耳に飾った姿のままの虎徹と目が合う。
 一瞬、まだいたのか! ぐらいの視線をみせたけれど、それはすぐに営業スマイルに切り替わる。
 キースはその姿を見て、ホッと一つ安堵のため息を漏らすと共に、このまま追い出されたまま帰ってしまうのもなんとなくつまらない気がしたから、あることに閃いてスタスタとエレベーターに近づいた。
 ちょうど客がみんな乗り込んだところで、二人を妨げるものはなく、再び近付いてきたキースに、虎徹が少し驚いた表情を浮かべてこちらを警戒している。
「キース?」
「虎徹君っ」
「―――っ!??」
 大きく目を見開いた虎徹両頬を手の平で包み込み、その唇に自分の唇を押し当てる。
 首を傾げて、たしかめるようにしっかりと重ね合わせて。
 再び周囲にどよめきが走り、ゆっくりと唇を離せば、唖然と固まっていた虎徹がハッと我に帰り、見る間にその顔が真っ赤に染まっていくではないか。
「キース!!」
「ハハハッ! じゃ、また!」
 あからさまに照れて怒っている虎徹が、本当に可愛くて……。
 キースは声を出して笑いながら、サッと右手を上げてその場を離れていった。
 大声をだして、キースを呼び止めたいだろうところを必死に耐えて、百合を抱えたままプルプルと震えていた虎徹の姿が、
「可愛かった……うん、やっぱり可愛いっ」
 と、満足感たっぷりに頷く。
 勢い余ってキスをしたけれど、
(柔らかかったな、虎徹君の唇……)
 感触を思い出し、ほんわりと幸せを噛みしめながら、キースは家路に向かうのだった。



 巷で【モデル級】と有名なエレベーターガールが、巷で【カリスマ美容師】と有名なイケメンスタイリストにエレベーターの前で百合の花束をプレゼントされ、その場で告白され、更にキスをされて、その百合を髪に飾り花束を抱えながら案内をしていた。

 と、この日の出来事は、ヘリオスビルのちょっとした伝説となった。





 が、しかし……。





 翌日。
 ネイサンの店。

「キース! あんたの所為でクビになったじゃないか!」
「え? どうしてだい?」
「は? ぬけぬけとしやがって……あんな騒ぎ起こして、営業放棄したら、クビになるに決まってんだろっ。ちなみに、キースもあのビルに出入り禁止になったんだからな!」
「ハハハッ。君がいないなら、あのビルに用はないよ!」
「ハハハッじゃないよ。爽やかにそんなこと言ったって、ごまかされないからなっ」
「仕事がないなら、私のところに来ると良い。うん、そうするべきだ!」
「ヤダね、同じネイサンの店なら、違うところで雇ってもらう」
「どうしてだっ! 私は君と一緒が良いっ」
「子供みたいな駄々こねてんなっ」
 二人の子供のような言い合いを、頬杖ついて眺めながら、いつの間にこんなに仲良くなったんだか、とネイサンは小さくため息を漏らす。
「……虎徹……このコ、違うお店に行ったところで、また同じことを繰り返すのがオチなんだから、いっそのこと一緒のお店で働きなさいよ」
「は? ネイサンまでそんなこと言うのか?! 同じお店にいて毎日キスされたら、堪ったもんじゃないよ!」
「まァ、キスされたの?」
「虎徹君の唇は、とても柔らかかった! そして、柔らかかった!」
「バ……ッ、恥ずかしいこと、おっきい声で二回も言うなっ!」
「なによ、既にバカップルなんじゃない。心配して、損したわ」
「まだ付き合ってねェ!」
「ハハハッ!」
「だから笑うな、バカキースっ!」
「ハハハッ! 痛い」


 脛に蹴りを入れているらしい虎徹と、脛をさすりながらも幸せそうに笑っているキースを見ながら、

(付き合うのは、時間の問題ね……わかりやすい二人だわ……)

 と、胸中頷くネイサンなのだった。





*終*





最後まで読んでくださり、ありがとうございました!!

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Author:眼鏡帽子屋*くー
こちらはT&B 兎虎、右虎徹小説メイン、同人情報サイトです。腐向けですので、苦手な方男性の方18歳未満の方はご退出くださいませ。なお、関係者とは一切関係ありません。

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