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【兎虎小説】ケンカの後の仲直り②[完]

兎虎 【ケンカ~】の②[完]です。








   *





「……ハァ……」
 虎徹の家の前に佇み、バーナビーは意味もなくため息を吐く。
 これが、一回目のため息ではない。
 何となく一歩踏み出すことに躊躇ってしまい、自分へのもどかしさに、既に4~5回ため息を吐いているのである。
 トランスポーターに向かったら、虎徹の姿は既になく、斉藤さんがシャワー浴び終わって速攻帰ってしまったと教えてくれた。
 だからこうして、虎徹の家にまで来たのだ。
 虎徹に突き放されるのは、覚悟だ。
 自分は、それくらいひどいことを言おうとした。
 それでも、一言謝りたい。
 自分が、わるかったと……。
 バーナビーだって、いつでも自分の考えがスベテではない。
 悪いときには悪いと、認めることは出来る。
 今は正直に……素直に、思えるのだ。

 虎徹に見限られるのは、イヤダ……。
 あの人と、離れるのも……。

 見放される覚悟ができていると言っても、現実的にはやはり離れたくない。
 だからこそ、こうして覚悟を決めて、謝罪に来たのだから。
「……ヨシ。行くぞ」
 いつまでも、このままではいられない。
 一つ、フゥと気持ちを落ち着かせるように息を吐き出し、勇気を出してインターフォンを押した。
『はいよー』
 少しの間を要して、インターフォン越しにあの人らしい適当な感じの返事が聞こえてくる。
「……あの……僕です。バーナビーです」
『…………おォ』
 少し躊躇いがちに応えると、驚いたのかもしれない。再び間を要して、短い返事が返ってきた。
 第一声でも低かったのに、声のトーンが心持ち低くなったような気がする。
 まだ、怒っているみたいだ。
 当然と言えば、当然か……。
『……どうした』
 何となく、その一言に【拒否】が孕んでいるような気がして、思わず辟易してしまう。
 すぐに施錠を解いてくれないのが、何よりの証拠だろう。
 ここで怯んでいてどうする、と自分に言い聞かせながら、バーナビーは今の思いを正直に伝える。
 情けない話し、直接顔を合わせていない、目を見合わせていない今の方が、チャンスだと思うから。
 一度言葉に乗せることができれば、後は虎徹の顔を見ながらでも勇気が持てると思うから。
「あの……さっきのこと、謝りに来ました。僕が、言い過ぎてしまったから……」
『…………』
 思いの丈を伝えると、返事はなかったが、しばらくして足音が近づいてきて、ゆっくりとホールの扉が開かれた。
 虎徹と目がバッチリと合い、何故か胸の当たりがギクリと驚く。
 それでも、目は逸らしてはいけない。
 ここで逸らせば、誠意は伝わらない……。
「あの……本当に、さっきはスミマセンでした。冷静さを、失ってました。僕が、理不尽に腹を立てたばかりに……」
 虎徹が自分に腹を立てることが気に入らなかっただなんて、子供の癇癪だ。
 そんな理由が、通用するワケがない。
 しばらく、様子を窺うようにこちらを見つめていた虎徹が、ひとつ吐息を吐きだすと、ゆっくりと口を開く。
「俺も結構、勢いに任せちまうけどな……オマエは、カッとすると前が見えなくなってしまうところがある……それはオマエにとって、決してプラスにはならないよな……」
 諭すような、虎徹の低い声。
 怒っているようにも聞こえるけれど、そこにはどこか、優しさのようなものが感じられて。
 もし父親がいたら、こんななのだろうかと……ふと考えた。
「わかっています。それが、自分の悪いクセだって。もう、若さだけでは通用しない……アナタは僕に、ちゃんと謝ってくれたのに、それを聞き入れなかった時点で、すべて僕がいけないんです。本当に、申し訳ありませんでした。あんなこと……本当は……」
 言うつもりなんてなかったのに。
 そう言おうとした言葉を、虎徹が遮った。
「わかってるよ。オマエが、本気で【あんなこと】言おうとしていたワケではないってことくらい……ただ、さすがに俺も逆上しちまってな……ちょっと、大人気ないことしちまったとも思ってたんだ。元を正せば、ヘマをした俺が悪かったんだから……オマエが腹を立てるのも無理はない。すまなかったな、バニー」
「……いえ……」
 気づけばいつも、この人に救われている。
 普段は凄く適当に見えるけれど、この人はとても大人だと思った。
 バーナビーが言おうとしていたことが、本気ではなかったのだろうと受け止められる、包容力。
 そして自分の非を潔く認める心の広さ。
 ひとりの人間として、すごく大切なものをこの人はしっかりと持っているのだと、バーナビーは感じていた。
「いえ……もう、良いんです」
 そして、急速に膨れ上がる、虎徹に対する愛しい感情。
 今、すぐに……。
「あの……センパイ……」
「ん? いつまでもこんなところで立ち話はなんだし、とりあえず、入れよ。始めから、寄るつもりだったんだろ?」
「……はい」
 バーナビーの感情を感じ取ったのかは定かだが、既にすべてを洗い流してしまったように、ニカッと笑みを浮かべる虎徹に促され、バーナビーは頷くとホールの中に入った。
 再び施錠して、中入れよ、と促し前を歩く虎徹の後ろ姿を見て、いてもたってもいられなくなったバーナビーは、背後からギュッと虎徹のカラダを抱き寄せた。
「ちょっ……と? どうした? バニー……」
 突然のことで面食らう虎徹が、不思議そうに様子を伺ってくる。
 柄でもないことをしていると、自分でも実感してしまう。
「いえ……何だか、父がいたら、こんな感じなのかなって思って……」
「はぁ~? オマエ、父ちゃんがいたら、こんなことするのか?」
 更に思いもよらない返答が返ってきたのだろう。
 虎徹は『何だそれ』とでもいうように声を上げ、続けて笑いながらおどけてみせる。
 あァ、やっぱり虎徹は、こっちの方が良い……。
「……しませんね……こんなことも、もちろんしませんし……」
 バーナビーはフッと笑みを浮かべ、虎徹の後ろ髪を掴んで軽く引っ張ると、強引に後ろを向かせて唇を重ね合わせた。
「ッ!」
 目を見開く虎徹の子供のような表情を目に留めながら、すぐに唇を離せば、キョトンと目を丸くする虎徹が、続けて合点がいったように得意げな表情を浮かべて見せる。
「はは~ん。さてはバニーちゃん、俺に甘えたいんだな?」
 もぞもぞと躰を動かし、正面を向き合うと、両腕を広げる虎徹。
 何かと思えば、『さァ、俺の胸に飛び込んでこい!』的な感じらしい。
 虎徹のこう言うところに、救われる。
 いつまでも引きずらず、解決した過去は水に洗い流し、明るく振る舞える。
 そんな虎徹に感謝しつつ、胸に飛び込むようなことはもちろんするワケがないので、ふとあることに思い至り、油断しまくっているその足を、チョイと払ってやった。
「何だっ?!!」
 不意を突かれ、転びそうになった虎徹の躰をヒョイと抱え上げ、お姫様抱っこの体勢に。
「オマエっ」
「チョロいですよ、オジサン」
「チョロいとか言うなっ」
「そういえば、オジサンの家の前までは来たことあるけど、中まで入ったことなかったでしたよね。いつも、僕の家ですので……」
「何か、話し逸らしてねェか? 何だよ、この体勢は……下ろせっ」
「逸らしてはいませんし、下ろしもしません。いつも僕の家でって言ったじゃないですか。寝室、何処ですか?」
「!! ……それ、答えるコッチは、メチャクチャ恥ずかしいじゃねェか……オマエ、まさか……」
「えェ。このまま、連れていきます。教えてくれたら……アナタもそのつもりでいるんだって判断しますよ」
「バニー、てめェ……卑怯だぞっ!」
 言葉を引きだそうとするバーナビーに腹を立て、声を荒げ青筋が浮かび上がらん勢いなのに、しっかり目の前の肩に掴まっている虎徹がまた、バーナビーを愉快な気持ちにさせる。
 こういう駆け引きは、楽しい。
 恥ずかしがって顔をそこはかとなく赤く染めてしまう姿も、見ていてとても楽しいし、愛しく思えてくるから……。
「……僕、悔しかったんです」
「は? 何だよ、いきなり……」
「アナタに、突き放されたと思ったら、いてもたってもいられなくなった……ただの、子供の癇癪なんです」
「……バニー?」
「ロックバイソンさんにも言われました。センパイは、ちゃんと話せばわかるヤツだって……だから、早く謝りたいって……そう思ったら、いてもたってもいられなくなって、気付いたらセンパイの家の前に立っていました。いえ……単純に、こうしてセンパイの顔が見たかっただけなのかもしれませんね……」
「バニー……えェっと……オマエが素直にでると、何かコッチの調子が狂うんだが……」
「たまには、こういうのもいいと思いませんか?」
 口の端を少し吊り上げて、肩を竦めて見せる。
 すると虎徹は少しだけ眉間にシワを寄せると、次にはフッとその表情を綻ばせ、人差し指を天井に向けて見せるのだった。
「どうせなら、たまにじゃなくて毎日がいいんだけどな。ウチの寝室は、ロフトだぜ? そんなところまで、本気につれていけるのか?」
 人差し指は天井ではなく、その更に上を指差していたいたらしい。
 オマエには無理だろう、と言われたような気がして、何となく対抗意識を燃やしてしまった。
「そんなの、問題ないですよ」
 よっと、持ち上げるように体勢を立て直せば、反動でしがみつく虎徹。
 相変わらず足は内股になってるし、今自分がどんな風にバーナビーに縋り付いているのかわかっているのだろかと思いつつ、そんな虎徹を見ているのがやっぱり楽しくて。
 バーナビーは、虎徹を抱き抱えたまま短い廊下を潜り、リビングに入った。
『オマエのウチは広すぎる』
 そう言って、ウチに対して文句を言っていたこともあったけれど、ここだって十分に広い。
 広いキッチンと、広いソファー、高い天井に、レトロなスピーカーに囲まれたテレビ。
 低収入とか自分で言っている割には、イイところを抑えている。
 せっかくとても雰囲気のある部屋になっているのに、
「何だか……まさしく『オジサンの一人暮らしの部屋』って感じがしますね……」
 転がっているビールの缶やワインのボトルの散乱状態に、ドッとため息が零れてしまった。
「う……うるせェっ。仕方ねェだろ、片付ける暇がねェんだからっ」
 しどろもどろに言い訳しているが、バーナビーの家で飲む時も、人の家でもお構いなしに飲んで、酔っ払って散らかし、フロアで寝こけていたくらいだから、まァこんなものなんだろうなと、あまり気にしはしない。
 ただ、
「そういえば、少しお酒くさいですね。飲んでました?」
 虎徹の口に鼻を近付け、スンと鼻をすすれば、う、と少し動揺。
 が、突然何をするかと思えば、虎徹が軽くその鼻に軽く噛みついてきて。
「わっ。何するんですかっ」
 さすがのバーナビーも焦って声を乱せば、ようやく主導権が握られ嬉しいのか、ふふんと得意げな表情を浮かべる虎徹。
「大人相手に調子に乗るからだ。俺は毎晩、晩酌してるんだから、ニオイがして当然だろ?」
「飲み過ぎには気をつけてくださいね」
「え? 俺の躰、心配してくれてんのか?」
 バーナビーのふとした言葉に、虎徹の目が意外そうに見開かれる。
 どこか少し、嬉しそうに。
(心配してるのは、そこじゃないですよ、オジサン)
「えェ。だって、いざ【する】ってなったとき、アナタが【反応】しなかったら、つまらないじゃないですか」
「っ!! オマエ……そういうヤツだったか?」
 バーナビーの意味アリの言葉に、慌てふためく虎徹。
  意外とこの人は、シャイと言うか、ウブなところがあるなと、バーナビーは思う。
 だからこそ、苛め甲斐があるのだけれど。
「ほら、余計な話が多いですよ。ここでヤッても構わないのであれば、今すぐヤッちゃいますけど?」
「いやいやっ! それは勘弁してくれ。あんな……写真の前でなんて、できねェだろ」
「……たしかに、そうですね」
 サイドボードに飾られたフォトフレームの中の数枚の写真にチラリと視線を移し、気まずそうに視線を寄越してくる虎徹に、少しだけバーナビーの胸が痛みを伴った。
 虎徹の家庭に対して、自分は特別な感情を抱いてはいけないことをわかっているはずなのに、こうして見てしまうとやはり遣る瀬ない。
 虎徹にとって、一生捨てられないだろう大切なもの。

 それでも、虎徹は自分も選んでくれたのだから、自分はそれを信じるしかない―――

 バーナビーも無性にその場を離れたくなって、
「じゃあ、早く上に行きますよ」
「お……おォ」
 改まり少し緊張した様子の虎徹を抱えたまま、バーナビーはロフトの階段をゆっくりと上がっていくのだった。
「オマエってさ、スマートに見えて、意外と力あるよな。着痩せすんのか?」
 ロフトの階段をすべて上がり終えると、虎徹が感心したような表情でバーナビーの顔をまじまじと見つめ、そんなことを言ってくる。
「僕は、アナタと違ってちゃんと鍛えてますし。努力家なんですよ」
「自分で言うか? それ」
 いつもの調子に答えれば、今度は呆れたような表情。
 ころころと変わる表情が面白いと思いつつ、ならばこれはどうだろうと、この人にとって少し意地悪な言葉を口にしてみる。
「それに、自分では着痩せなんてしてるとも思ってませんし、それはアナタが一番知ってるじゃないですか。僕の裸なんて、もう何度も見ているんですから」
「まァ……な。そうハッキリ言われると、照れくさいんだが……」
 身も蓋もないストレートな言葉。
 何か想像でもしたのか、バツが悪そうに視線を逸らしてしまう虎徹。
 何気にこの人は、こういった発言に弱いような気がすると、バーナビーは思っていた。
 だからこの人にとってこういった言葉は、意地悪な言葉に繋がるのだ。
 普段は結構おちゃらけていて、馬鹿なことも平気で言ってるのに、イロゴトになると、こうやってらしくなく照れたりする。
 もしかすると、経験を持ったことがある相手が失ったワイフだけで、それ以来、まったくセックスをしてこなかった可能性もある。
 そう思うと、どこかいけないことをしているような反面、バーナビーの心の中に沸々と沸き起こってくるのは、言い知れない高揚感で……。
 虎徹自身は、年齢的にも自分がバーナビーを可愛がっていると思っているらしいが、

(僕は、逆だって思ってますよ、オジサン……)

 その思いがそのまま、このお姫様抱っこに繋がってるのかもしれない。
「どうですか? お姫様抱っこで、ここまで連れてきてもらった感想は……男性では、なかなか経験出来ないですよね」
 出逢いが出逢いだっただけに、何故か無性にお姫様抱っこがしたくなる時がある。
「あー……なんか、いたたまれない感じ……でも、悪くもない」
「うん、合格にします。その回答」
「ンだよ、その上から目線はよっ」
 モジモジしながら答えた回答が、なんとも言えずバーナビーの心を踊らせて。
 頷くバーナビーに、虎徹はいつものごとく、眉間にシワを寄せながら声を荒げて反論。
 それを気持ち良くスルーして、バーナビーは虎徹のカラダを掛け布団がとっ散らかったマットレスの上に下ろし、そのまま自分もマットレスの上に上がり、虎徹の下肢を跨いだ。
「【布団】ってヤツじゃないんですね。残念だ。期待していたのに」
「またオマエ、話題逸らしやがって……コッチじゃ布団なんて、売ってねェだろ」
「一度日本に行って、布団で眠ったことがあるんです。それが凄く気持ちよかった印象があったから……次に僕が来るまでに、布団にしといてくださいね」
「バニーちゃん、人のお話、ちゃんと聞いてます? 売ってないの、コッチじゃ……って、何で既にもう、脱がしに掛かってんだよ……」
 あーだこーだと喧しい虎徹を鬼無視して、Tシャツの裾をたくし上げようとすると、虎徹がすかさずバーナビーの腕を押さえてそれを阻止してしまう。
「何で邪魔するんですか? 言ったじゃないですか。ココにくることは、こういうことだって。僕だって【男】なんですから、そのくらい察してください」
「……そう言われちまうと、何も言えなくなっちまうじゃねェか……」
 お互い男だからこそ、わかることもある。
 困ったような表情を浮かべている虎徹に、バーナビーは少しだけ意地悪そうな笑みを浮かべながら、
「アナタも、早く僕が欲しくありませんか?」
 と、純情な虎徹に言わせたい言葉を催促する。
 ムッと眉間にシワを寄せ少し考え込んだ虎徹は、バーナビーが求める言葉ではなく、更に問い掛けを被せて来た。
「なァ、バニー……こんな一回りも離れたオジサンなんか……なんでそんなに……えぇっと……その……」
「抱きたいって思うかって?」
「……そういうことだ」
 言いづらそうに何を言い出すのかと思えば、この人はそんなくだらないことを考えて気にしていたのかと、呆れてしまう。
 けれど、それだけ虎徹がバーナビーのことを考えてくれている証拠だから、それは素直に嬉しいと思えることで……。
「理由なんて、必要ですか?」
「…………」
「強いて言えば、理由が見つかりません。僕はそんなこと、まったく気にしていませんから。だからアナタも、気にする必要はないと思いますよ」
「……そうは言ってもだな……」
 たしかに普段は『オジサン』呼ばわりしているけれど、それは虎徹が呼ぶ『バニー』と同じでコミュニケーションのようなものだし、本当にそんな歳の差など一度も気にしたことはない。
 むしろ、一回り離れた虎徹から見れば、若造だろう自分をこうして受け入れてくれたことが、嬉しくて仕方がないのだから―――
 けれど、この人はどうしても気になってしまうらしい。
 おそらくは、【負い目】だろう。
 バーナビーであれば、いくらでも好きな女性と関係を持つことができるハズなのに、それをアラフォーのオジサンを相手にするなど、バーナビーに申し訳ないと……。
 そんなこと、本当に気にする必要などないのに……。
「アナタをこうして抱くことが、僕のアナタに対する【気持ち】だって、受け取ってもらっても構いませんよ」
「……バニー?」
 バーナビーの言葉が、何を意味するのか……。
 もちろん気付かないハズもない虎徹の瞳が、大きく見開かれる。
 けれど、そう簡単に言葉にするつもりはない。
 その代わり、
「だから、アナタが僕を受け入れてくれることも、それだけの【気持ち】を抱いてくれているのだと、僕は解釈します」
「っ……バニー……」
 ソッチの人間ではない男が、男を受け入れカラダを変える。
 よほどの覚悟を持たなければ、できることではないと思う。
 こちら側の立場からすれば、言い方は悪いがヤルことは一緒で、男としての立場は変わらない。
 けれど、受け入れる立場は、相手の【オンナ】にされると思われても仕方がないことなのだ。
 もちろんバーナビーには、虎徹を微塵もそんな目で見て見たことはないけれど。
 二人がカラダの関係を持つようになったキッカケは、今となってはよく覚えていないが、自然とこの形になっていた。
 もし立場が逆になっていて、自分はこの人を受け入れることが出来たのかと言われたら、正直言ってわからない。
 断っていた可能性だってある。
 けれど、もの凄く単純な話で、カラダを繋げたことで、虎徹に対する愛しさが性急に芽生えた。
 カラダを繋げる度に、虎徹がバーナビーを必死に受け入れる姿を見る度に、その愛しさは、膨れ上がる一方だ。
 人の愛情など、そんな単純なところから生まれるのだと、バーナビーは思うようになった。
『セックスしてるからって僕が離れていかないとか、高括ってるんじゃないでしょうね……』
 あんな言葉は、勢いで言ってしまった方便だ。

 離れられなくなっているのは、きっと自分の方だと思うから……。

 だから、反省もしている。
 この言葉から、彼を本気に怒らせてしまったことも、たしかだから。
「そう思っても、平気ですよね……?」
 虎徹の口から答えを聞き出したくて。
 虎徹の琥珀の瞳に写る、どこか不安げな表情を浮かべた自分の顔を見つめながら問う。
「…………」
 何を思っていたのだろう。
 やはりジッとこちらを見つめ考え込んでいた虎徹は、フッと表情を綻ばせると、バーナビーの眼鏡に触れ、答えるのだった。
「構わねェよ……オマエが思っていることは、間違いじゃねェよ……」
「……センパイ……」

「俺な、カラダだけの関係とかって、割り切ることが出来ねェんだわ。相手がどう思うかは知らねェが、自分の中ではそれは【失礼】だって思っちまう……俺は、相手に特別な感情を持たない限り、カラダを繋げようとは思わない。相手が男なら、尚更だ」
「…………」
「嫌なら確実に断ってるから、安心しろ。それに、相手から俺に対する感情を感じられない時も……それこそ【カラダだけ】なんだって思えても、ハッキリ断るだろうな。俺は、そこまで軽く付き合うようなことは出来ねェから……それは、オマエがさっき言ってたことと、同じなんだと思うよ」
 バーナビーの眼鏡をそっと外し、左腕を目前の首に回して、右腕で自重を支え半身を起こすと、虎徹は顔を傾けバーナビーの唇に自分のそれを押し当ててくる。
 ドキリと胸が大きく弾み、バーナビーは虎徹の顔を見つめた。
「オマエの気持ちは、ちゃんと俺に伝わってるから、安心しろ」
 精悍な顔が、柔らかく笑みを浮かべ、バーナビーを受け入れる。
 その、優しく響くテノールの声が、心に温かい。
 カッコ良いと、思う。
 自分なんかよりも、全然。
 父親でもあるこの人は、バーナビーには持つことの出来ない、優しさを纏ったカッコ良さがある。
 ドキドキドキドキと……胸が大きく鼓動を打つ。
 この人を目の前にし、この人のことを考えているだけで、こんなにも苦しくなる自分が存在するのだ。
 それが、自分の気持ちのすべてなのだと、バーナビーは思う。
「センパイ……」
 バーナビーは感情を押さえきれず、先程触れてきた虎徹の唇に、自分の唇を重ね合わせる。
 何度も、何度も、角度を変えて、小さく音を立てながら、啄むように……。
 虎徹のカラダを抱きしめるように背に腕を回せば、虎徹はバーナビーにすべてを預けるように、自重を支えていた右腕もバーナビーの首に回し、接吻に答えてくれる。
「ンッ……」
 その接吻に、甘く酔いしれる虎徹の吐息も、ひどく、甘い。
 ただ触れあうだけの、戯れるような接吻を、二人は長い時間続けていた。
 その存在を、確かめ合うように。
 虎徹のカラダが、熱くなっているのが、一枚の布越しに伝わってくる。
「ふっ……ンッ」
 これだけのキスで、感じてくれていることが、至極嬉しい。
 早く、早く、この人と繋がりたくて……。
 けれど、その前にどうしても伝えたい言葉がある。
 一度も、声に乗せたことのない言葉。
 先ほどは、簡単には言葉にしたくないとおもったけれど、今はどうしても伝えたい。

 いつも素直になれず、すぐに突き放すような言葉しか言えずに、ケンカばかりしているけれど……今なら言えると思うから。

 バーナビーがゆっくりと離れれば、名残惜しげに唇をとがらせる虎徹が、何だか可愛くて。
 フッと笑えば、何だよ、と今度はふてくされたように唇を尖らせるから、かなわない。
 バーナビーは、少しだけ乱れた虎徹の前髪を指ですくい上げ、首筋にそっと触れた。
「っ……」
 ヒクンと、敏感に震えるカラダ。
「アナタに……伝えたいことがあります」
「どうした? 改まって」
 まっすぐと目を見据えるバーナビーに、不思議そうに首を傾げる虎徹。
 そんな虎徹がひどく愛しくて。
 バーナビーは、今までに一度も見せたことないような優しい笑みを浮かべ、初めての言葉を虎徹に贈るのだった。


「僕は、アナタが好きです―――」


「っ……」
「どうしましたか? 黙らないで下さいよ」
 あからさまに照れている虎徹が、恥ずかしげに視線をそらす。
 バーナビーの【告白】に対する虎徹の言葉は、結局聞くことは出来なかったけれど、バーナビーは十分だった。
「オマエ……っ、んなこと、面と向かって、こんな至近距離で言うなっ」
 突然顔を真っ赤に紅潮させて、目がみれないとばかりに両腕で顔を覆ってしまった虎徹の姿をみれたのだから。
 先ほどまで、あれだけ『気持ちは伝わっている』とかかっこいいこと言っていたのに、いざとなるとこれなのだから……。
 そんな虎徹が至極愛しくて、バーナビーは笑いながら虎徹のカラダをギュッと抱きしめた。





 結局この日はカラダを繋げることなく、身を寄せ合うように眠りに付いた。





 が、起きて早々、遅刻だのなんだのと痴話喧嘩を始めたのだから……。
『夫婦喧嘩は犬も喰わない』
 の、良い実証例な二人なのだった。






*終*






最後まで読んでくださり、ありがとうございました!


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眼鏡帽子屋*くー

Author:眼鏡帽子屋*くー
こちらはT&B 兎虎、右虎徹小説メイン、同人情報サイトです。腐向けですので、苦手な方男性の方18歳未満の方はご退出くださいませ。なお、関係者とは一切関係ありません。

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